神戸地方裁判所 昭和25年(ワ)384号 判決
原告 篠崎兼三
被告 柴田利一
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告は「被告は原告に対し金四万三千一百円とこれに対する昭和二十五年五月十日から支拂済まで年六分の割合による金員とを支拂わなければならない」との判決と仮執行の宣言とを求め、請求の原因として「訴外水野信之は大星社という商号を用い、各種出版物への廣告の申込代理業を営むものであるが、同訴外人は、昭和二十四年三月、被告から、廣告料は廣告掲載と同時に支拂を受ける約で廣告掲載の依頼を受け、其の依頼に基き、廣告を掲載した上、その廣告料金四万三千一百円を廣告業界の取引慣習により、同訴外人において廣告掲載の月の月末までに被告のため立替支拂をし、ここに同訴外人は被告に対し、金四万三千一百円の廣告料立替金債権を取得し、次いで同訴外人は原告に対し右の被告に対する廣告料立替金債権を讓渡し、昭和二十五年五月五日被告に到達した内容証明郵便を以て其の旨被告に通知した。よつて原告は被告に対し右立替金四万三千一百円とこれに対する遅延損害金として昭和二十五年五月十日から支拂済まで商法所定の年六分の割合による金員との支拂を求めるため本訴に及んだ、」と述べた。<立証省略>
被告は「原告の請求を棄却する」との判決を求め、答弁として「原告の主張事実は総て否認する、訴外水野信之に廣告を依頼したのは被告の次男である訴外柴田一一が代表者となつている訴外合名会社浪速化学研究所であつて、被告は本件に何等関係がない」と述べ抗弁として「仮に原告主張事実が認められるとしても、原告は他人から依頼を受けて法律事務を取扱うことを業としているものであるが訴外水野信之から本件債権取立のため本訴を提起することを目的として本件債権を讓受けたのであつて、本件債権讓渡は信託法第十一條に違反する無効の行爲である。」と述べた。<立証省略>
當裁判所は職権により原告本人を尋問した。
三、理 由
成立に爭のない甲第一号証と証人水野誠、同水野信之の各証言とを綜合すると、訴外水野信之は大星社という商号を用い、廣告代理業を営んでいたが、同訴外人は、昭和二十四年初頃、被告から、廣告料は廣告掲載の月の月末に支拂を受ける約束で廣告主を訴外合名会社浪速化学研究所とするキヤプテンドロースの宣傳廣告を雑誌に掲載する依頼を受け、この依頼に基き、同訴外人は右の宣傳廣告をスポーツ毎日、ベースボールニユース等に掲載し、その廣告料を被告のため雑誌社に立替支拂したが、被告は、同訴外人に対し、この廣告料のうち一部を支拂つたのみで残金四万三千一百円については支拂わないので、同訴外人は、被告に対し、廣告料立替残金四万三千一百円の債権を有することが認められ、更に前顕甲第一号証と証人水野信之の証言により眞正に成立したと認められる甲第二号証と成立に爭のない甲第三第四号証と証人水野誠、同水野信之の各証言と原告本人の供述の一部とを綜合すると、訴外水野信之は、昭和二十五年五月一日、前記認定の被告に対する廣告料立替残金債権金四万三千一百円を原告に讓渡し、同月五日被告に到達した内容証明郵便を以て、その旨被告に通知したことが認められる。原告本人は「訴外水野信之から同年三月十日過頃に本件債権を讓り受けた」旨供述するが、この供述自体極めて不自然で作爲的な心証を與えるのみならず、この供述と乙第一号証の文言(もつとも、原告本人は被告の感情を考慮して、すでに債権を讓り受けているに拘らず、取立の依頼を受けたと書いた旨供述しているが措信できない。)ならびにその日付が同月十日となつていることや、前記甲第一号証の同月三日付被告名義の月賦金借用証書の名宛人が訴外水野信之になつており、又その内容において、同年四月二十六日を分割弁済の第一回分の履行期としていることや、証人水野誠の「被告は同年三月三日に同年四月二十六日より毎月金五千円宛分割支拂うと約束したが、この分割支拂の約束を一回も実行しないので、本件債権を原告に讓渡した」旨の証言等とを比較考慮するときは、原告本人のこの供述は信用することができず、他に右認定を左右するような証拠はない。そこで、更に進んで、被告の抗弁について判断してみると、前記認定の如く、訴外水野信之と原告との間に本件債権の讓渡があつた昭和二十五年五月一日と本訴提起の日であること記録上明かな同月十八日とが極めて接近している事実ならびに原告本人の供述により認められる原告は從來法律関係の仕事をしていたもので、嘗て他から鉄鉱の賣掛代金債権の讓渡を受け、その取立の訴訟を当裁判所に提起したことがある事実、および前記甲第一号証ならびに成立に爭のない乙第一号証と証人水野誠、同水野信之の各証言の一部と原告本人の供述の一部とを綜合すると、訴外水野信之は、被告に対し、本件債権の支拂を督促していたが、被告は一年もの月日が経過してもその履行をせず、昭和二十五年三月三日に至り、同訴外人に甲第一号証の月賦金借用証書を差入れたが、この証書によると、被告は万一支拂能力発生のときは一時に完済する旨後段に表示して同訴外人に讓歩しているとはいうものの、その骨子は、同年四月二十六日から毎月金五千円宛分割支拂うことを約する点にあり、かくては、被告が約旨通り支拂をしても、本件債権は、その完済までになお半年以上の月日がかかることとなるので、同訴外人は被告のこの申入を聞き容れず、当時、同訴外人の知人で法律関係の仕事をしていた原告に本件債権の取立を委任し、その際、場合によつては、訴提起の手段をとることも考慮していたところ、被告は、同年三月十日到達した内容証明郵便による同訴外人の代理人である原告からの督促にも應じず、又前記甲第一号証に基く分割弁済の第一回分の履行期である同年四月二十六日が來ても何等誠意を示さなかつたので、遂に同訴外人ならびに原告の側では訴提起の手段に出ることとなり、同年五月一日、本件債権を同訴外人から原告に讓渡し、同月五日、その旨同訴外人から被告に通知して原告を本件債権の権利者とし、原告より被告に対し、本訴を提起する準備を整えた上、同月十八日原告が本訴を提起するに至つたものと認められ、この認定事実によると、本件債権讓渡は、正しく、信託法第十一條にいわゆる訴訟行爲をなさしむることを主たる目的としてなした債権の信託讓渡といわなければならない。もつとも、証人水野信之の証言や原告本人の供述中には「原告が嘗てマシーナリーという雜誌社の大阪支社長をしていた頃、訴外水野信之から廣告掲載の依頼を受けたことがありこのため、同訴外人に対し約金三万二千円の廣告料残金債権を有していたので、この債権の弁済に充当するためと、原告の恩義に報いるために、同訴外人は原告に本件債権を讓渡したのであつて、同訴外人に本件債権の取立を依頼したこともなく、又本訴は原告が権利者としてその意思に基き提起したものである」旨の供述部分があるが、原告が訴外人に対し有していたという廣告料残金債権の存在自体、首肯し難い節があつて、この供述部分は全部信用できないし、同証人ならびに証人水野誠の証言や原告本人の供述中前記認定に反する部分は措信し難く、他に右認定を左右するような証拠もない。
してみると、訴外水野信之と原告との間の本件債権讓渡は信託法第十一條により無効であるといわねばならないから、これが有効であることを前提とする原告の本訴請求は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條第九十五條を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 石井末一 西川正世 北後陽三)